変装名人と髪結いさん。
「はーちやせんぱーい」
「タカ丸さん」
暢気な声で俺を呼びとめてきたのは、1つ年上の後輩だった。
彼の存在は、その編入に至る経緯から、学園内で有名だ。本人の容姿の派手さも目立っている一因だろう。
ただ人懐っこい人柄のせいか、わりと周りの反発は少ない。
「久々知先輩見なかった?委員会のことで確認したいことがあるんだよー」
「ああ、兵助なら火薬庫にいましたよ」
「そっか!ありがとー」
本当に嬉しそうに笑う。
年上にこの表現はおかしいかもしれないが、無邪気といってもいいくらいだ。
でもその純真さに騙されてはいけない。
「いえいえ。――――ところで、タカ丸さん」
「なに?」
「どうして俺って分かりました?」
今の俺は、変身の術の真っ最中なのである。
それもタカ丸さんが探している意中の人物―――久々知兵助に。
兵助とは背格好も近く同じ学年で接点も多いため、本人すら自覚のないちょっとした癖も完璧に把握している。
そもそも、素人に見破られるほど俺の変身の術が下手である筈がない。
それを忍術1年生レベルのタカ丸さんに気付かれては、少々自尊心が傷つく。
だが、俺の内心などさっぱり気付いてないかのような笑顔で、タカ丸さんは言い切った。
「だって久々知先輩と髪質が全然違うもん。それ付け毛でしょ?」
さも当然という顔。
「―――なるほど」
髪結いの知識の応用と確かな洞察力。
編入を認められるぐらいには、忍びとしての素質があるということか。
この人も中々に侮れない。
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来る者拒まずの忍術学園ですが、4年生(上級生)に編入が認められるという事は、それなりに素質があるのかなぁと妄想。
同じ委員の髪質なら真っ先に覚えてしまってそうです。
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